
競馬にはジョッキーや馬主などさまざまな人が関わりますが、そういった人の中に「調教師」と呼ばれる人がいます。
武豊やルメールといった有名なジョッキーや、金子真人氏などの大物個人馬主はメディアで名前を聞く機会も多いですが、調教師に関してはよくわからない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、調教師が競馬においてどのような役割を担う人かに関して解説します。
併せて、調教師になるための方法や有名な調教師も紹介しますので、興味がある方はぜひ参考にしてください。
競馬の調教師とは?
競馬の調教師とは、「競走馬をレースに出られるようにトレーニングする人」を指します。
競走馬は優れた競走能力をもっていますが、もって生まれた能力だけでレースに勝てるわけではありません。
スタートの合図と同時にゲートを出ること、騎手の指示に従ってレースを進めることなどは、教わらなければわからないことです。
調教師は「厩舎」と呼ばれる場所で競走馬を管理し、競走馬が万全の状態でレースに出られるようにさまざまなケアを行います。
なお、「競走馬を管理してケアをする職業」としては、調教師のほかに厩務員や調教助手などもおり、これらは混同されやすいです。
調教師は厩舎で10頭~20頭程度の馬を管理しており、定期的に馬の入れ替えも行われるため、すべての馬のことを完璧に把握することはなかなかできません。
そのため、それぞれの競走馬のケアや手入れを実質的に行うのは「厩務員」と呼ばれる方です。
また、競走馬をレースに出られるようにするための訓練のことを「調教」と呼びますが、それを実際に行うのが「調教助手」と呼ばれる方です。
厩舎をひとつの学校、競走馬がその学校のひとつひとつのクラスだとすると、調教師が校長先生、厩務員と調教助手が各クラスの担任・副担任といったイメージで考えるとわかりやすいでしょう。
調教師が厩舎全体の方針を示し、厩務員と調教助手がその方針をもとにして実際の馬の性格や個性などを踏まえながら、適したケアや調教を行うという形です。

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競馬の調教師の主な仕事内容

調教師の仕事内容は一言でいってしまえば「厩舎運営」ですが、具体的な業務の内容は多岐にわたります。
競馬の調教師の主な仕事内容を、以下で紹介しましょう。
競走馬のトレーニング
先ほども少し触れましたが、競走馬のトレーニングを実際に行うのは調教師ではなく、各競走馬を担当している調教助手であるケースが大半です。
しかし、トレーニングの方針自体は調教師によって決められます。
そのため、調教師は間接的にではありますが競走馬にトレーニングに関わっているといえるでしょう。
また、ジョッキーから調教師に転身した方の場合、調教師自らがトレーニングを行うこともあるようです(現在では福永祐一調教師など)。
競走馬の出走計画の考案・調整
JRAでは毎週土日に24もしくは36のレースが組まれていますが、その中からどのレースに自厩舎の馬を出走させるかを決めるのも、調教師の仕事のひとつです。
それぞれの馬は戦績によって出られるレースの区分が決まっており、馬ごとに距離適性も異なります。
調教師はなるべくよい成績を残せるような形で出走計画を考案し、馬の調子を見ながらもともとの計画を適宜調整しなければなりません。
また、調教やレースでの様子を見ながら、これまでに経験したことがないような条件への出走を判断するのも、調教師の大事な役割です。

騎手とのレースプランの相談
競走馬を万全の状態でレースに送り出せるようにケアをするのは調教師の役割ですが、実際にレースで競走馬をコントロールするのはジョッキーの役割です。
競走馬をレースで勝利させるためには、調教師とジョッキーの手腕が噛み合うことが欠かせません。
「スタートしたらそのまま逃げて…」「今回は前に馬を置いて足を溜めながら…」など、どのような形でレースを進めるかをジョッキーと相談するのも、調教師が担う役割のひとつです。
セリ市での競走馬の購入のサポート
競走馬は「セリ市」と呼ばれる場所で馬主に購入されますが、レースに向けたトレーニングがまだ行われていない馬を見て、どの馬が走るかを見抜くのは至難の業です。
しかし、日々馬のケアをしている調教師の中には、自然と相馬眼が養われてくる人もいます。
そういった調教師は、懇意にしている馬主に対してセリ市での競走馬購入のサポートを行うこともあります。
そこで馬主が購入した馬を自分の厩舎に預けてもらえれば、自厩舎の戦力の底上げにつながるため、馬主と調教師の双方にとってWin-Winです。
競馬の調教師の年収
令和6年賃金構造基本統計調査の結果をもとにすると、調教師の平均年収は591万円のようですが、正直なところ「平均年収」という考え方は調教師においてはあまり意味をもちません。
なぜなら、調教師の収入は「競走馬の成績」に大きく左右されるからです。
競走馬はレースに出走して掲示板に載る5着以上の成績を取ることで、賞金を獲得することが可能です。
そうして得た賞金は、馬主・騎手・調教師の3者で一定の割合で配分されます。
そのため、より賞金の高いレースでよりたくさん掲示板内に入れるような馬を管理しているような調教師は、自然と年収も高くなります。
一方、大レースで走れるような有力馬をあまり管理していない調教師の場合、収入が平均以下になってしまう可能性も考えられるでしょう。
大きなレースに勝利して馬主からの信頼が厚くなり、さらによい馬を預けてもらえる…といったよいループを生むことができれば、億を超える収入も夢ではありません。

競馬の調教師になるための方法
競馬の調教師になるためには、「調教師免許試験」に合格しなければなりません。
調教師免許試験はJRAと地方競馬で異なるので、JRAと地方競馬、どちらの調教師になりたいのかを踏まえて受ける試験を選びます。
なお、JRAに関しては28歳以上であることが試験受講の条件です。
調教師免許試験の合格はかなり狭き門として知られており、2025年度は125名の応募に対して合格者が9人、2024年度は133名の応募に対して合格者が9人でした。
騎手や調教助手から調教師への転身を目指す方も多いですが、そういった方たちが数多く試験に臨む中でこの合格率ですから、かなりの難関試験であることがおわかりいただけるでしょう。
競馬調教師の東西厩舎ランキング

JRAの調教師は、関東は茨城県の「美浦」、関西は滋賀県の「栗東」にまとめて厩舎を構えており、それぞれの地域で切磋琢磨しながら競走馬のトレーニングを行っています。
競馬では、ジョッキーの勝利数によるランキングなどがメディアで触れられて「今年のリーディングジョッキーは誰か」と騒がれることもありますが、調教師の勝利数に触れられることはほとんどありません。
しかし、ジョッキーも調教師も競走馬に携わるプロである以上、調教師の勝利数についてより注目されるようになってもよいのではないでしょうか。
そこで、TARGETと呼ばれる競馬用のソフトを用いて集計される、9/16時点での2025年の調教師の勝利数について、美穂と栗東それぞれでのトップ10を以下にまとめました(勝利数が同数のところは2着数の差です)。
美浦 | 栗東 | ||||
順位 | 名前 | 勝利数 | 順位 | 名前 | 勝利数 |
1位 | 木村哲也 | 29 | 1位 | 杉山晴紀 | 40 |
2位 | 堀宣行 | 29 | 2位 | 斉藤崇 | 37 |
3位 | 斎藤誠 | 25 | 3位 | 中内田充正 | 35 |
4位 | 田中博康 | 25 | 4位 | 矢作芳人 | 33 |
5位 | 手塚貴久 | 23 | 5位 | 友道康夫 | 32 |
6位 | 黒岩陽一 | 23 | 6位 | 藤原英昭 | 31 |
7位 | 鹿戸雄一 | 22 | 7位 | 上村洋行 | 28 |
8位 | 宮田敬介 | 22 | 8位 | 長谷川浩大 | 27 |
9位 | 萩原清 | 20 | 9位 | 四位洋文 | 26 |
10位 | 伊藤圭三 | 19 | 10位 | 大久保龍志 | 25 |
ランキングからは、栗東に厩舎を構えている調教師のほうが全体的に勝利数が多いことがわかります。
実際にG1などの大きいレースでの勝利馬も栗東で管理されている馬が多く、このことは競馬界の「西高東低」として話題に上ることが多いです。
しかし、美浦でも調教施設の改良などが進められているので、西高東低状態の是正を期待したいところです。

JRAの競馬における有名な調教師
有名ジョッキーといえば生きるレジェンド武豊を中心に、C・ルメールや川田将雅など、何人かの名前が挙がると思います。
それと同じように、調教師にも大きなレースで何勝もするような有名馬を管理していることで、名が知られるようになった方がいます。
JRAの競馬における有名な調教師を、以下で何名か紹介しましょう。
矢作芳人
矢作芳人氏は、サウジCやUAEダービーといった海外の重賞を何勝もしている現役ダート最強馬、フォーエバーヤングを管理している調教師です。
JRAの調教師の中でもとくに海外経験が豊富なのが大きな特徴で、パンサラッサ・リスグラシュー・ラヴズオンリーユーなどで、海外G1を何度も制覇しています。
また、サイバーエージェントの社長かつ馬主業も行っている藤田晋とのつながりも強く、上述したフォーエバーヤングだけでなくシンエンペラーという海外重賞勝利馬も管理を任されています。
今後も国内にとどまらない幅広い活躍が期待される調教師のひとりです。
国枝栄
国枝栄氏は、これまで最多となるG1・9勝の偉業を成し遂げた名牝アーモンドアイを管理していた調教師です。
アーモンドアイ自体に類まれなる能力があったことは疑いようがありませんが、その力をレースでしっかり発揮できたのは、国枝氏の手腕によるところが大きいでしょう。
ほかにも、カレンブーケドールやハヤヤッコ、アカイトリノムスメなど、ファンが多い馬を多数管理していました。
9/16時点での2025年の勝利数は19で、美穂の厩舎ランキング11位と、先ほど挙げた厩舎ランキングではわずかに名前が載りませんでしたが、美穂を代表する調教師のひとりです。
調教師の定年制度の影響で来年2月には定年を迎えることになりますが、最後までJRAで大きな存在を残し続けてくれるでしょう。

友道康夫
友道康夫氏は、レジェンドジョッキー武豊とのペアでG1を5勝し、競馬ファンの心に大きな衝撃を残した名馬、ドウデュースを管理していた調教師です。
ドウデュースはダービー馬ですが、友道厩舎ではほかにもワグネリアンというダービー馬を輩出しており、同じ厩舎からダービー馬を複数輩出するのはとても難しいことです。
このことからも、友道氏の競走馬育成力の確かさがおわかりいただけるでしょう。
2025年のオークスもカムニャックで制しており、厩舎ランキングでも栗東の5位に入っていることから、今後ますますの活躍が期待される調教師のひとりです。
木村哲也
木村哲也氏は、2023年のドバイシーマクラシックを勝利し、世界最強馬となったイクイノックスを管理していた調教師です。
また、イクイノックスと同期でつい先日引退を発表した2022年の皐月賞馬、ジオグリフも木村氏の管理馬でした。
さらに、現役馬としてもレガレイラ・ヘデントール・チェルヴィニア・コスタノヴァという4頭のG1馬を管理しています。
厩舎ランキングでも堂々の美穂1位であり、レース勝利の質・量ともに申し分ありません。
今後も西高東低を打破せんとする美穂の急先鋒として、競馬界で大きな存在感を発揮してくれるはずです。

競馬の調教師は騎手と並んで重要な役割を担っている

調教師は、「競走馬をレースに向けてトレーニングする」という役割を担っている職業です。
競走馬を実際にレースでコントロールして走らせるのはジョッキーですが、競走馬がポテンシャルをしっかりと発揮できる状態になければ、ジョッキーがどれだけ頑張っても勝利は難しいでしょう。
そのため、調教師は競走馬のレースでの勝利を目指すために、ジョッキーと並んで大事な役割を担っているといえます。
調教師になるためには調教師免許試験に合格しなければなりませんが、調教師免許試験の合格はかなり狭き門です。
騎手や調教助手といった方が転身を目指して調教師免許試験を受けることも多いので、かなりシビアな戦いを潜り抜けなければ調教師にはなれません。
調教師は、競馬のレースを見ているだけではあまり意識することはありませんが、我々が競馬を楽しめているのは調教師の尽力によるところが大きいのは間違いありません。
これからは、競馬を観戦するときに競走馬やジョッキーだけでなく、調教師にまで気持ちを巡らせてみるのはいかがでしょうか。

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